剥き出しの宇宙 | 旅の手記 | Kota

その日「夜空」という言葉には、

ある種のミスリードがあると知った。

夜の空、それは空という概念ではなく、

「宇宙」そのものだと理解したからだ。

 

2026年8月12日

日食と新月と流星群が重なる

人類史的にも地球的にも珍しい日だった。

 

日中、私はハーグ市内で長時間の肉体労働をしていた。

朝に家を出たのに、帰宅した頃には夜の21時を回っていた。

正直、天体的に珍しい現象が重なるとは言え、

ここまで酷使した肉体と精神を持って、

わざわざ流星群を観に行く為に外出するべきかは迷ってはいた。

 

シャワーを浴びて、服を着替えた。

サティバ系のWeedを吸って、遅い夕食をした。

新鮮な食べ物と飲み物が口に入るごとに

特急で心身が回復に向かっていることが分かった。

日照りの後に葉を折り畳んでしまった植物が

恵の雨を勢い良く吸収し、

その葉を再び空へと広げるような体感があった。

 

ありがたい。。

うん、これなら行ける。

いや、むしろ行きたい。

そう自分の心が言ったのが分かった。

 

重たい一眼カメラと三脚を持って、

妻と2人、暗い外の世界へと繰り出した。

東京の夜とは違って、辺りはとても暗かった。

そして、海に近づくに連れて段々と

街灯の間隔が広くなっていき

より一層暗闇が増していったのが分かった。

 

途中、森の中を通った。

夜の森は怖さと美しさが相混じっていて魅力的に見えた。

木々のトンネルの中では、

光がより乏しく、もはや白黒の世界だった。

視覚情報が少ないからなのか、

夜だからなのか、木々の心地良い香りを

全身で感じていた。

 

段々とビーチから届く細かい砂が私達の歩いているコンクリの道の上を薄く覆い始めていた。

あの丘を登り切れば、海はそこに広がっている。

上に向かってスゥーッと上がっていく一本の坂道。

その道の先は夜空へと繋がっていたようだった。

 

見上げると無数の星々が瞬き合っていた。

辺りに他の人影はなく、真っ暗な世界の中で、

自分達2人と星々があるだけだった。

まるでうっかり違う惑星に迷い込んでしまったような

夢の中を歩いているような氣持ちになった。

 

なんと神秘的なのか。

 

丘の下のビーチにはこの宇宙のイベントを見ようと

人々がそれなりに集まって居た。

なんとなく人の形をした黒いシルエット達は

思い思いに空を見上げていたようだった。

 

私達はその辺りの砂浜にブルーシートを広げて仰向けになった。

その時、視界に入る全てが宇宙そのものになった。

大きく息を呑んだ。

 

これは夜空であって夜空じゃない。

夜空という言葉自体が空の1つの姿という

フィルターになっていたことに氣付いた。

 

今、そのフィルターを外して

目の前に広がって見えていたものは、

剥き出しの宇宙そのものだった。

 

無限に広がる宇宙。

無数に散らばる星々。

その中の1つの地球という星に

私達人類は張り付くように生きている。

いや、生かされている。

もしも、重力が無くなりでもしたら、

あっという間に地球の人類を含めた大半が

あの宇宙へと落ちていく。

放り出されていくのだ。

 

私達人類は、

地球という超高性能の宇宙船に乗せて貰い、

この宇宙を太陽系と共に皆んなで旅し続けているのだ。

 

それもこの旅自体は、

人類が存在する前のずっとずっと遠い昔から続いている。

 

夜空という名の剥き出しの宇宙は、

この奇跡の旅の途上にあることを、

強烈に思い出させる為の窓のようなものだと思えた。

 

それに、目の前に広がる

1つ1つの星々にもまた物語がある。

そして、それぞれが数光年〜数千光年も離れている。

だから、今見えているそれぞれの光は途方も無い程前の残像ということになるらしい。

もう、実際には存在していない星もあることだろう。。

 

その時、一瞬のことだった。

小さな白い閃光が宇宙に現れ消えた。

 

あ、流れ星だ!

そうだ、これを見に来たのだった。

 

流れ星は、地球の大気圏で燃え尽きていく星のカケラ達だ。

つまり、そのカケラ達の最後の瞬間とも言えるし、私達を隕石の衝撃から守ってくれている地球の偉大な守護の証明でもあった。

 

短い時間の中で

視界いっぱいにしても入りきらない

宇宙の中で複数の閃光が出ては消えていった。

白、青、黄、様々な光だった。

少し大きなものが現れると辺りからは歓声が上がった。

この特別な天体ショーをこの場にいる

お互い顔も見えない全員で共有していた。

 

きっと今この瞬間、

地球の色々な所で人々は宇宙を見つめているんだ。

同じ流れ星を見て感動してるんだ。

そのことを想うと、

何故だか無性に泣きそうになった。

 

しばらくして、巨大な閃光が現れた。

それは、強くて美しい赤い光だった。

その星のカケラの形もちゃんと見えた。

白くて鳥のような姿をしていた。

巨大な火の鳥を見てしまったと思わざるを得なかった。

 

結局、

重たい想いをして持ってきた一眼カメラと三脚は一度も使わなかった。

でも、きっとこの夜のことは一生忘れないだろう。

死ぬ前に見る走馬灯でもまた見るだろう。

 

人として生きていると猛烈に苦しい時もある。

でも時には本当に美しい瞬間を与えてくれる。

この地球に、この宇宙に、

人という生命体として生かされていることに

感謝と感動をしている。