In My Life | 旅の手記 | Kota | Oneness Artist

旅の手記:In My Life

 

昔からの仲間達と自然の中へ。

自然と言っても都内にある広い公園だった。それでも園内には、薄く木々の香りが漂っていて、氣付けば自然と呼吸が深くなっていた。辺りはもう薄暗く、それなりに冷たい風が吹いていた。皆んなで子供のように両手でかき集めた枯葉に優しく火を付けた。炎は轟々と音を出して仔犬のように勢い良く立ち上がった。やがて薪へと移ると、よく躾けられた馬のように落ち着いてくれた。寒空の下、暗闇の中で暖かい光を授かった。それだけで世界が大きく変わったように感じた。

ゆっくりとした時間が自分達と共にあった。炎で焼き、塩だけで味付けした肉と野菜を食べた。それぞれの思い出の曲を順番で流し合い、笑い合い、生産性があるようでない、どうでも良いようなことを話し合い続けた。時にこの世界における真理めいた話もし合った。水を汲み、火を育て、時間を掛けて熱いコーヒーを淹れた。炎を眺めながら少しづつ飲むと、メガネが曇り視界は白くぼやけた。どこか違う世界にいるような氣持ちになった。

仲間の1人がビートルズのIn My Lifeを流した。懐かしいイントロと温かい歌がこの世界一帯を包み込んだ感じがした。幼い頃に父親の運転する車内のラジカセからこの歌が流れていた情景を思い出した。運転席に座るお父さんは寡黙で人見知りだけれど、月のようにいつも優しかった。助手席の後ろの席に座るお母さんは1年前に病で急に亡くなってしまった。けれど、いつも明るくて誰とでも仲良くできる太陽のような人だった。お母さんの隣には妹がいた。大きく笑いながらお母さんと何かを喋り続けていた。一番、後ろの席には兄2人が座っていた。1人はスマホを見つめては、遠くを見て考え事をしているようなしていないような目をしていた。もう1人の兄は車酔いが発症しないようにと音楽に集中して氣分を紛らわせていた。私達はある目的地を目指して移動しているようであり、どこかからか家に帰ろうとしているようでもあった。早く到着したいという氣持ちがある一方で、ずっとこのまま一緒に居れたならと願う自分もいた。

 

バチッ! という音を響かせて赤く燃える薪がいくつかの火の粉を空へと放った。オレンジ色に光り輝く粉が宙を漂い、潔くすぐに消えていった。友人は新しい薪を慎重に焚べていた。コーヒーの入ったコップはまだまだ両手の中で温かった。思い出というものは振り返ると、ほんの少し前のことのようであり、遠い銀河の果てでの話のようにも感じられる。そして、もう2度と起きることはないと想うと、妙に愛おしくて切なくなってしまう。

その時、何とも言えない不思議な感覚があることに氣が付いた。何故だかは分からないし、根拠も無い。でも、もしかしたら、このメンバーでこの場所、この瞬間を、何千回も何万回も繰り返してる。そんな氣がしてならなかった。

 

目を閉じて、鼻から大きく息を吸って、ゆっくり鼻から吐いた。

「これで良い。これが良い。」

心に留めずに、皆んなに聞こえるように炎に向かって言った。

 

いつか、ふとどこかで、今日のことをまたほんの少し前のことのように感じ、遠い銀河の果てでの話のようにも感じて、愛おしくて切なく想うのだろう。何故だかは分からないし、根拠も無い。でも、もしかしたら、きっと、あのIn My Lifeは今もまだ木々を抜けずにまだあの場所、あの瞬間にいる僕達を、何千回も何万回も優しく包み込んでくれている。そんな氣がしてならない。

 

Lyrics: In My Life by The Beatles

 

There are places I’ll remember

All my life though some have changed

Some forever, not for better

Some have gone and some remain

All these places have their moments

With lovers and friends I still can recall

Some are dead and some are living

In my life I’ve loved them all

 

和訳:

きっとずっと忘れない場所がある。

この人生を通して色々変わった。

悪い意味でずっと変わらなかったり、

すっかり無くなった場所もあれば、

まだ残っている場所もある。

そんな色々な場所で

恋人や仲間達と過ごした瞬間を

僕は今でも思い出すことができる。

亡くなった人も居る。

生きている人も居る。

この人生での全部が全部、愛おしい。