炎のカケラ | 旅の手記 | Kota | Oneness Artist

旅の手記: 炎のカケラ

金曜日。時刻は19時。空も段々と暗くなっていた。完全には夜ではないけれど夕方とは呼べない狭間の時間。商店街のお店達は各々のタイミングでポツポツと明かりを灯し始めていた。街の人々は表情には出していないがどこか嬉しそうな足取りで家路や外食先へと向かっていた。いよいよ今回の旅の目的の1つでもあった大阪で受けたいと思っていたセミナーが始まる。しかし、それは会議室のような場所で講義形式で行われるいわゆる”セミナー” ではなかった。屋根裏バー「週間マガリ」というすごく尖ったブランディングをする飲み屋さんでの開催だった。

このお店は毎日店長が入れ替わるユニークな制度を取っていた。店長を一般募集して、集まった各店長がそれぞれの企画を持ち出して集客もしていた。各店長に金銭的なバックは出ないが仲間を集ったり、イベントをするのには最適な場所だ。そして、その日は友人であり経営者の通称アキさんが1日店長だった。アキさんの企画内容は、ざっくり言うとオランダ移住についてだった。アキさんは既にビザを取得済みでもう少ししたら家族を連れて移住予定とのことだった。僕は現在の自分の状況を俯瞰した時にこの際いっそ海外に出て行くのも選択肢として有りだと思っていた。だから実際にこれから海外に行く人と話せる機会は凄く貴重だと思っていたし、何より挑戦心に溢れるアキさんの話を直接じっくりと聞いてみたかった。

階段を上がってお店の中に入ると、他のお客さんはまだ誰もいなかった。でも、昭和の懐かしグッズがこれでもか! とひしめきあっていた。すっかり忘れていた物からずっと割と心の表面の方にあった物まで。異様というかThe不思議空間だった。その空間にいることで段々と小さい頃に仲が良かった従兄弟の部屋を思い出した。彼の部屋もこのお店のようにゲームやオモチャに囲まれていた。当時の彼の部屋の海外製の柔軟剤のような独特な匂いもふわっと感じた氣がした。そこに遊びに行くとつい時間を忘れて、家に帰ることすら拒んで、ずっと遊んでいた。でもある時から疎遠に近しい距離になってしまった。キッカケは分からない。いやキッカケなどは無かったと思う。ただそうなってしまった。きっとそういうことって誰しも人生ではあることだと思う。そして時が来たらまた近い距離になるのかも知れない。あるいは、もう2度とならないかも知れない。出会って、別れて、出会って、別れる。その自然な流れに対して寂しさや悲しみは無いけれど。もし心の中を少し本氣で探せば哀愁という奴はどこかに転がっているとは思う。

 

 

「どうも! どうも〜!!」アキさんが相変わらずの様子でとっても陽気に到着した。彼と会うのはこれで2回目だが前回も今回もやっぱり”超”元氣だった。エネルギーの塊。120%でフル稼働。そんな印象を誰しもが持ってしまう凄まじくパワフルな人だ。彼が来ただけで店内の明度が上がり温度も少し上がったように感じる。アキさんがバーカウンターにスッと入ると「ほなっ。」という感じで熱いトークがすぐに始まった。今の日本という国について。オランダという国について。彼の人生感について。彼の半生について。そして未来のビジョンについて。情熱的に全身を使って面白おかしく、だけど「真剣」を軸にどんどんと言葉を紡いでいった。氣付けば、他のお客さんも徐々に集まってきて、店内は昭和グッズと人で賑わっていた。アキさんも更にギアを上げていたように見えた。彼はジントニックを片手に皆の目を見ながら笑顔で語り続けた。でもその視線の焦点はどこか遠い世界にあるようにも思えた。

「当然、リスクはあるしお金も掛かるけど。でも10年後を考えた時。このまま日本に10年居続けた時の自分と、オランダに10年居続けた時の自分。どっちが良い?って言ったら、絶対! 僕はオランダにいる自分が良いと思う。そっちの人生の方が僕は絶っっ対! 面白いと思う。行けば行ったらで、そりゃあ色々大変なことはあると思いますよ。でもそれは現地でどうにかすれば良い。なんとでもなりますよ。」

とにかく明るい満面の笑みをしていた。そして、夢に向かって挑戦している人が持つ特有のなキラキラした目の輝きを放っていた。前日に会った奈良の友人も同じ様な目を持っていたことを思い出した。氣付けば、あっという間に夜の12時を超えていたが、アキさんは依然としてトップスピードを維持したままだった。僕はアキさんやその場に居た人達に感謝とお別れを言って店を出た。そのまま泊まっているホテルまで1人ゆっくりと歩いて帰った。

暗い深夜の街を歩いている人は自分以外にほぼ誰も居なかった。彼の人生への情熱の炎の一部が僕の中に少し移って残っている。そんな氣がして全身を通り過ぎていく夜風がひんやりと心地良かった。きっとこの炎のカケラは近々どこかに転がってる哀愁とすれ違ったりするかもしれない。

目の前に少し大きな別れ道が現れた。さて。どっちに行こう。