どんな目
ある夏、僕は一人、キューバに居た。
太陽が容赦無くジリジリと頭と背中を焦がす。
ズッチャ、ズッチャ、ズッチャ、ズッチャ、
大音量のラテン音楽独特のリズムが
重低音で路地に響き渡るが誰も氣にしない。
修理を重ねられた古いクラシックカー達は
排気ガスをブスブスとふかして我が物顔で
進むが誰も氣にしない。
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ケラケラと笑いながら雑談をする人々。
テラスに出てただボーッと
下の様子を見ている人々。
気怠そうに店番をする人々。
汗をかきながら各家庭に大きなトラックで
食材を配給する人々。
皆んながそれぞれの時間を生きている。
今日も人々は生きている。
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地元の人々は外に居るのが好きなようだ。
しかし何をする訳でもなく、
ただ何かをボーっと見つめていることが多い。
そういうボーッとした人々が
道の左右にズラーっと立ち並んだ
5階建のマンションの各テラスに居る。
路上にも椅子を出して多くの人が座って、
ただただボーッとしてる。
ここの時間の流れはふわふわしている。
その光景は僕にとって新鮮で面白かった。
そういう僕にとっての非日常で、
彼らにとっては日常である光景を
垣間見れると異国に来た感覚を
より強く覚えて嬉しくなる。
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しかし
今日もすぐにバテそうなくらい蒸し暑い。
少し外を歩き回れば汗達が頬を走る。
この暑さで体調もあまり良くない。
それでも何かを見つけたくて、
進めたと思いたくて歩き回ってみる。
そしてただ歩いてるだけで人々は
本当によく話しかけて来る。
「ヘイ、チーノ!」
アジア人である僕を
見かければ皆んなが揃って
笑顔で大きな声で口に出す。
「おい、中国人!」
という意味だ。
「ヘイ、アミーゴ!」
だけど、
少しでも関わればもう友達と呼ぶ。
他人を他人と思わないように感じる。
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いつも見返りを求める人達によく出会う。
確かに彼らは資金的にはまだまだ貧しい。
しかし物やお金が少ないから貧しいのか、
求める心が強いから貧しさを産むのだろうか。
彼らは人生に不満であることが滲み出ている。
そして彼らの目はいつも鋭く忙しく動く。
時に見返りを求めず、
親切で思いやりのある人達にも出会う。
慈愛に満ちた行動すること
自体に喜びがあるのか。
人生に幸せそうである。
そして彼らの目はいつも暖かくて優しくて深い。
「目はその人の心を映しだす」
ふと誰かの言葉を思い出し、
妙に腑に落ちるような氣がした。
今の僕はどんな目をしているのだろうか。
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